イタリアW杯予選敗退という衝撃/〝W杯出場〟という権利はもはや強豪国だけのものではない(後編)
イタリアの衝撃的な敗退とW杯予選のレベルが上がっていることについての記事の続きです。
前編はコチラ↓
中編はコチラ↓
随時加筆しているのでまた読んでいただければ嬉しいです。
●主要大会でのレギュレーションの変更
前回述べたように、敗退はイタリア自身の問題だけではなく、アイスランドの躍進やベルギーの復活に代表されるような、他の国々のレベルアップにより全体のレベルが上がったことにも多少影響を受けました。
それまで強くなかった国が強くなるということは、もちろんそれに押し出される形で実力の落ちた強豪国が追いやられてしまうということにもつながります。
それだけでなく、予選の形式自体の変更も番狂わせを起こしやすくする一つの要因となっています。
これはW杯ではなくEURO(欧州選手権)での話ですが、EURO2012の参加国が16ヶ国であったのに対し、次のEURO2016では参加国が24ヶ国に増えました。
これにより予選の形式も必然と変わり、それまでは各組6チーム(もしくは5チーム)で9つのグループをつくり、その各グループの1位が本大会出場権獲得、そして各組の2位同士でプレーオフを戦うというのが大まかなやり方でした。
しかし出場国が増えた2016の予選からは、各組2位までが自動的に出場権獲得で、3位同士でプレーオフを戦うというやり方に変わりました。
パッと見、強豪国にただ余裕が生まれるだけの変更にも思えますが、裏を返せばこれはいつも予選で下位に沈むチームにもチャンスが巡ってくるという見方もできます。
大きく考えるとグループで3位のチームにまでチャンスがあるということになりますが、これによる小国のモチベーションのアップは計り知れません。2位までと3位までというそれだけの違いですが、普段本大会に出られないチームにとっては本当に大きいことです。
実際にそれによりモチベーションが上がったアイスランドは前述したように、予選で同組となったオランダを蹴散らし見事2位で本大会出場を決め、オランダは4位で本大会に出場できないという結果になりました。
さらに、出場国が増えたということにより、EURO本大会でもレギュレーションの変更がありました。それまでグループリーグの各上位2チームだけが決勝T進出であったのに対し、出場国数が「24」となったEURO2016本大会からは、各グループ上位2ヶ国に加えて、3位チームのうちの成績上位4チームも決勝Tに進出できる形となりました。*①を一部抜粋
ちなみにその大会優勝したポルトガルはなんとグループ3位で通過したチームでした。
レギュレーションの変更により、サッカーの「何が起こるかわからない」という特色はより一層濃くなりました。
そして今年1月、ついにW杯でも出場国が増やされることが決まりました。
具体的には、2026年大会から、それまでの32ヶ国から48ヶ国に増やされるというものです。そして本大会でのレギュレーションは、現時点では、48のチームを16のグループに分け、1グループ3チームで1次リーグを行い、その後の決勝トーナメントは従来通り行うというものです。
この案は「W杯のレベルが落ちる可能性がある」などの理由からしばらく反対されていましたが、2017年1月10日のFIFAの理事会で正式に決定しました。
FIFAのインファンティーノ会長は出場国を増やすこの案に対して、「参加国を48チームに増やすことで、サッカーをさらに世界中に発展させ、W杯は単なる競技会ではなく、社会的なイベントとなる。」と、サッカーをより世界中の国々に身近なものにすることによって、W杯をより大きな権威のある大会にできることをメリットとして挙げました。
FIFAのジャンニ・インファンティーノ 会長
さらに参加する国や地域が増えることによって放映権料の収益が増えることが見込まれることもメリットとして強調していました。
僕自身はW杯のレベルが下がることの懸念より、色んな国と対戦できる楽しみの方が強いのでどちらかというと賛成です。ただ、これ以上増やすと流石に多いかもしれませんね。
この案により、W杯予選のレギュレーションも変わるでしょうし、それにより世界中のサッカー後進国のやる気が上がるのも間違いないでしょうね。これからもっと今回のような番狂わせが増える可能性は十分にあります。
●〝枠〟という問題
出場国の数の話に関連して、よく話題になるのが「各地域から何ヶ国W杯に出場するのか」という〝枠〟についての話です。
アジアは現時点では4.5という枠が与えられています。なぜこんな中途半端な数字になるのかというと、アジアの最終予選は合計12チームを2つのグループに分けそれぞれのグループ上位2ヶ国ずつの4ヶ国、そして3位チーム同士の対決を制した国が大陸間プレーオフに回るというやり方を取っているからです。この大陸間プレーオフに回るチームの枠が「0.5」の部分なんですね。
ちなみに世界で最も枠の小さい地域はオセアニアで、0.5となっています。つまり予選で1位になったとしても大陸間プレーオフを勝ち抜かなければW杯には出場できないということです。
オーストラリアがなぜかアジア予選に移ってきたのはそういう理由があります。1位になってもその後大陸間プレーオフを戦わなければならないオセアニア予選より、4.5の枠があるアジア予選の方がW杯出場の可能性が高いと判断したのでしょう。
そして2026大会の各大陸の出場枠は以下に決定しました。
■ アフリカ - 9カ国(現在5カ国)
■ アジア - 8カ国(現在4.5カ国)
■ ヨーロッパ - 16カ国(現在13カ国)
■ 北中米カリブ海 - 6カ国(現在3.5カ国)
■ オセアニア - 1カ国(現在0.5カ国)
■ 南米 - 6カ国(現在4.5カ国)
*②を一部抜粋
どうでしょうか…。やっぱりこう見ると「多っ!!」って思う人も多いはずです。
アジアは8ヶ国とかなり増えています。これにプレーオフを勝ち抜いた1カ国を合わせるとアジアからなんと最大9ヶ国が出場することになる可能性もあるそうです。
恐らく、最終予選のグループ分けを増やし、4グループでそれぞれ上位2ヶ国が本大会出場決定で各グループ3位同士でプレーオフを争う…というような形になることが予想されます。いずれにせよアジアに関しては、以前よりは少し楽になるのではないかと思われます。
アジア予選に関しては、以前から「他の大陸予選よりユルい」という意見がよく聞かれました。
確かに、アジア予選はテレビ朝日が地上波放送時に煽っているほどは厳しいものではないと思います。 あれはちょっと極端ですが(笑)。
各グループの1位しか本大会に出場できない アフリカ予選や、「弱い国が存在しない」南米予選、近年さらに全体のレベルが上がってきているヨーロッパ予選に比べれば、比較的楽であるとは思います。
2006ドイツ大会から来年のロシア大会までの、過去4大会の本大会への出場国を見てみます。
2006ドイツ大会ーサウジアラビア・韓国・日本・イラン(オーストラリアも出場したがまだこの時はオセアニア枠)
2014ブラジル大会ーイラン・韓国・日本・オーストラリア
2018ロシア大会ー日本・サウジアラビア・イラン・韓国・オーストラリア
ほとんど同じ顔ぶれです。もちろん他の大陸予選でも言えることですが、アジアはその傾向が強いと感じます。直近4大会に関しては出場経験のある国はトータルで6ヶ国のみです。現在のアジアの予選参加国数は46ヶ国なので46分の6ヶ国が過去4大会でW杯に出場した国になります。
他の地域についても調べたのでみてみます。
・各地域の予選総参加国数に対するW杯過去4大会の出場経験国数(予選総参加国数は2017年現在)
【ヨーロッパ】
予選総参加国数 : 54
過去4大会の出場経験国数 : 22
【南米】
予選総参加国数 : 10
過去4大会の出場経験国数 : 8
【アフリカ】
予選総参加国数 : 53
過去4大会の出場経験国数 : 12
【北中米カリブ】
予選総参加国数 : 35
過去4大会の出場経験国数 : 6
* オセアニアは割愛
もちろん、W杯の出場枠の数の差などはありますが、こうみてもやはりアジアが最も予選参加国数に対してW杯の出場経験国数の割合が少ないのがわかります。
ヨーロッパは出場枠が世界で最も多いですが、その代わり過去4大会、毎回初出場の国があるので、毎回目新しさはあります。来年のロシア大会の初出場はアイスランドです。
今回のようにイタリアのような強豪国が敗退した時に「アジアはこんなにユルいんだから枠をヨーロッパにわけたほうがいい」とか、この前のハイチ戦のように日本代表がW杯出場を決めた後に内容の悪い試合をした時に「こんな試合をするくらいならW杯出場権を他の国にあげた方がいい」などという意見がネットなどでよく聞かれます。
「アジアがユルい」というのはよくわかります。ただ、これらの意見は僕は正直よくわからないです。
それぞれの地域の予選でレベルの差があるのなんて当たり前ですし、そもそも「世界各国か色々な国が集まってサッカーの祭典をしよう」というのがW杯の始まった理由です。
別に他の国に比べて楽をしたわけではなく、日本は日本でアジアという舞台でしっかり勝ち抜いてW杯の出場権を獲得したのです。選手達や監督の血の滲むような努力は計り知れません。
というか正直、今回のW杯予選でアジアからヨーロッパに2つくらい枠をあげていたとしても、今回のイタリアは予選突破できたか怪しいです。オランダだってそうです。
アジアはアジア、ヨーロッパはヨーロッパ、南米は南米とそれぞれ全く違うステージなのですから、そもそも枠がどうのとか比べるのもおかしいですし、選手達もそんなこと全く考えていないと思います。
そして何より、今回イタリアに勝ったスウェーデンは本当にいいチームであり、W杯で見るに値するチームです。
そうなんです。別にタレントが豊富な強豪国が見られることだけがW杯の楽しみではなく、強者に勝つすべを分かっている弱者の面白いサッカーを見るのもW杯の醍醐味であるのです。それを分かっている人が少ないように感じます。
別に日本が他のサッカー先進国より大きく遅れをとっていようが、W杯出場を己の力でもぎ取った限り、それは完全に日本のものです。当たり前ですが。
日本はW杯出場を決めたことをもっと誇っていいのです。
今こそフランツ・ベッケンバウアーの名言を思い出す時ですね。「強いものが勝つのではない、勝ったものが強いのだ」。
強い国がW杯に出場するのではありません。W杯に出場するチームが素晴らしいのです。本大会まで残り時間も少なくなってきましたが、日本には誇りを持ってW杯に臨んで欲しいですね。
そして本大会でアイスランドやパナマとあたった時は面白い試合を期待したいですね!今回は以上です。
参照したサイト
① EURO、今大会から3位チームもGS突破の可能性…決勝Tの組み合わせはどうなる? | フットボールチャンネル
② 2026年W杯、各大陸の出場枠が決定…現行のプレーオフ制度の見直しも | サッカーキング