イタリアW杯予選敗退という衝撃/〝W杯出場〟という権利はもはや強豪国だけのものではない(中編)
前編に引き続きイタリアのW杯予選敗退と、それに関連してW杯予選のレベルが上がっていることについてです。
前編はコチラ↓ 加筆したので是非また読んでいただきたいです。
●イタリアの課題②
単純な監督の力不足
2014〜2016まで監督を務めたアントニオ・コンテの後任としてチームを引き継いだジャンピエロ・ヴェントゥーラ監督でしたが、結果は最悪のものになってしまいました。
今や稀代の戦術家となった若手監督・コンテが率いたイタリアは今とそれほど戦力は変わらないものの、一人一人が決まり事を守り、ミスを冒さない堅実なイタリアらしいチームでした。
ウイングバックの上下運動を中心に全員がよく走るチームで、EURO2016ではヴェッラッティ不在ながらGLでベルギー、決勝T1回戦でスペインを下すなど、下馬評を覆す結果を残し、コンテはプレミアリーグのチェルシーに引き抜かれました。
一方、新監督のヴェントゥーラはそれまでコンテが使ってきた3-5-2ではなく、4-2-4・3-4-3といった真ん中に2人のセンターハーフを置くシステムを多用します。あまり慣れないシステムに戸惑いもあったのか、9/2に行われた欧州予選のスペイン戦で3−0の完敗を喫するなど、イタリアは確実に迷走していました。
特にそのスペイン戦の敗戦はかなりショックだったようで、その辺りからヴェントゥーラ監督への風当たりは徐々に強くなっていきました。
さらに現地メディアによればスペイン戦後に選手だけでミーティングを行っていたようです。
さらに今回のプレーオフでも、第1戦では、真ん中を固められて狭いスペースしかなくなってしまった時に、サイドからの切り込みで特にその能力を発揮するロレンツォ・インシーニェを途中投入で真ん中に配置させたり、さらに第2戦でも何が何でも一点が必要な後半に攻撃的なカードではなくコンディションの微妙な守備的MFデ・ロッシを交代で投入させようとしたりと、どこか疑問符のつく采配も少しありました。
いずれも選手が不快感を表していたことからも、選手と監督の間に良好な関係が築けていなかったという可能性も考えられます。
特に、インシーニェは個人的にイタリアで今最も個の能力が期待できるクラックですので、第1戦で途中出場、第2戦では出番すらなかったことは疑問が残ります。第2戦のデ・ロッシが交代を命じられた時も彼は「なんでインシーニェじゃないんだ!?」と言っていましたしね。ああいう真ん中を固められてサイドがある程度自由な試合は彼が活きやすいはずですが。
どちらにせよ、このシステムではインシーニェ、エル・シャーラウィというイタリアが誇る2人の若手アタッカーの完全な適性ポジションはありませんでした。ベルナルデスキは割とどこでもこなしますが。
●世界全体のレベルが上がっていることは間違いない
ここからはイタリア自身の問題以外の部分の話です。
確かにイタリアは強豪国ですが、今回の敗退は「番狂わせ」とは言えない部分もあります。
以前も述べましたが、ここ数年世界中の国々の全体のレベルが上がっていることは間違いないです。
アジア最終予選の地上波の放送ではやたら「アジアも全体のレベルが上がっているので気の抜ける試合は1つもありません」と煽りますが、 その地域の中での全体のレベルが上がっているのはアジアに限った話ではなく、むしろ南米やヨーロッパの方がどんどん厳しい状況になってきています。
W杯の初出場国は、2002日韓大会で4ヶ国、2006年ドイツW杯は6ヶ国とかなり多いですが、2010南アフリカ大会で1ヶ国、2014ブラジル大会で1ヶ国、そして今回のロシア大会でもすでにアイスランドとパナマの2ヶ国が初出場を決めるなど、毎回のように初出場国はあります。W杯は4年に一度のため、その4年間で多少勢力図が変わることはあります。
初出場国に対して一方、形式が現行の方式に近い形となった1982年大会以降、ベスト8を経験したことのある国の中で出場を逃した国、つまり各大会で出場できなかった強豪国の数はどうでしょうか。2002年日韓大会は7ヶ国だったのに対し、2006年は10ヶ国、2010年も10ヶ国、2014年11ヶ国、そして今大会は11ヶ国となっています。確実に増えてきています。
この傾向から、W杯出場国のバリエーションが増えてきている、つまり世界中の色々な国が出場するようになってきているのは間違いないです。
アイスランドの躍進とベルギーの復活
サッカーアイスランド代表
ここ最近のその象徴がアイスランドの躍進です。2016EURO予選ではオランダと同組になりながら見事に押しのけ本大会初出場を果たし、それだけでなく決勝Tに進出しイングランドを破るジャイアントキリングをやってのけました。
そして今回のロシア大会ヨーロッパ予選ではクロアチア、トルコ、ウクライナという曲者集団と同組になりながら見事に首位突破。国民全員の夢であった〝W杯出場〟という大仕事を完遂しました。そして彼らが見据えるのはその先、「本大会での躍進」です。
アイスランドは人口約33万人で、これまでW杯に出場してきた国々の中で最も少ないです。その次に少ないのがトリニダード・トバゴの130万人ですので、アイスランドがいかに少ないかわかると思います。
この33万人というのは新宿区の人口とほぼ同じですが、さらに驚くべきなのは、選手として登録されているのが男女合わせて約2万人という少なさです。これだけのサッカー人口の少なさから、あのクオリティの代表チームが生まれているわけですから、もう「小国だから代表チームは弱い」という言い訳は成り立たなくなりましたね。
アイスランド躍進の主な理由は、指導者の育成、そして育成年代に力をいれていることです。
アイスランドは、ここ数年指導者の育成に力を入れており、国民500人に1人がUEFAコーチングライセンスを持っています。対してサッカーの母国、イングランドの国民の取得率は約1万人に1人の割合です。 ※①を参照
そしてそれに伴い、若い世代の育成にも力を入れており、今回の欧州予選の最終戦・コソボ戦のスタメン11人は全てアイスランド1部リーグ以外のリーグでプレーする選手達でした。
若くて優秀な指導者が育成年代を強化し、その選手達が早い段階から海外リーグで実力を磨くことから、アイスランドはここまで代表チームを強化することに成功しました。
アイスランドは、小国でもやるべきことをやれば強豪国と同じ舞台に立てるということを他の国々に示したのです。10年前なんてアイスランドの名前を聞くことすらありませんでしたからね…。
アイスランドのケースだけではありません。ベルギー、ポーランドはもはやダークホースとは呼べなくなり、〝準強豪国〟として欧州予選を堂々と首位突破するまでに力をつけてきました。
特にベルギーは世界屈指とも言えるタレントを各ポジションにズラリと揃え、2016のEUROと今回のW杯出場を〝連続〟で逃した凋落の著しい隣国・オランダに取って代わる存在になりました。
さらには、コスタリカは前大会で衝撃的なジャイアントキリングを繰り出し、今予選パナマはアメリカを抑えW杯初出場を果たしました。
「番狂わせ」は誰もが予想しなかったところで、続々と起きています。
代表チームには「移籍」は存在しません。クラブチームと違いお金を持っているチームが強いわけではないです。W杯やEUROなどの主要大会では、ベスト8以上になれば大体同じ顔ぶれになるとはいえ、欧州各国リーグほど上位陣を毎回のように同じチームが占めているわけでもなく、毎大会ダークホースと呼ばれるチームが少なくとも1つは上位にあがってきます。
さらにW杯などの大会は1年近くの長丁場であるリーグ戦と違い、ほとんどが一発勝負のトーナメントです。国を背負う重みもあり、緊張は普段のゲームとは段違いという選手も多いでしょう。
代表クラスの戦いは、クラブチームよりかは多少番狂わせは起きやすい状況にあるのです。
そして、サッカーによくあるルールの改正も、その兆候に拍車をかけることになりました。
また長くなったのでもう一回に分けます(笑)
参照したサイト
① W杯史上“最少国”となったアイスランド…新宿区とほぼ同じ人口の小国が見せる躍進の理由 | Goal.com